みつ恵の演劇の楽しみ
(演劇ライター・前田みつ恵)
2026年10月1日
▽當る未歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎(12月1―24日、京都・南座)
▽五節句の会(10月18日、京都・大江能楽堂)
▽市川團十郎特別公演(10月3―25日、京都・南座)
★京都の師走を彩る「當る未歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎」
(12月1―24日、京都・南座)
今年の顔見世は、尾上左近改め三代目尾上辰之助の襲名披露を兼ね、昼の部で「音羽嶽だんまり」、夜の部「新版歌祭文・野崎村」を上演する。
辰之助は、四代目尾上松緑の長男として2006年1月に生まれた。尾上左近を名乗り、この5月、東京・歌舞伎座で三代目尾上辰之助を襲名披露した。市川染五郎、市川團子とともに「染・團・辰(そめ・だん・たつ)」と呼ばれ注目を集めている。屋号は音羽屋。
「音羽嶽だんまり」は音羽屋ゆかりの演目。2009年に松緑に抱かれて初お目見えした作品で主役の音羽夜叉五郎を演じる。「野崎村」も代々受け継がれてきた音羽屋にとって大切な演目で、初役でお光をつとめる。劇中で襲名口上を行う。ちなみに父・尾上松緑は12月東京・歌舞伎座で上演する新作歌舞伎「忠僕元助」の主演が決まっていたため出演できなかった。
昼の部の河竹黙阿弥・作「天衣紛上野初花・河内山〜質見世より玄関先まで」で片岡仁左衛門(Aプロ、Bプロは松本幸四郎)が河内山宗俊を4年ぶりに演じる。
夜の部は話題の「木挽町のあだ討ち」を上演。永井紗耶子が2023年に山本周五郎賞、直木賞を受賞した。美しい若衆・菊之助が芝居小屋のすぐそばであだ討ちを成し遂げ、多くの人に賞賛された。その2年後、菊之助の縁者という男が芝居小屋を訪ねてきた。
脚本・演出は齋藤雅文。市川染五郎が伊納菊之助を演じるほか、松本幸四郎、中村雀右衛門、中村又五郎、中村鴈治郎ら、尾上辰之助も出演する。
ほかに、昼の部「正札附根元草摺」「絵本太功記・尼ヶ崎閑居の場」、夜の部、襲名祝いとして舞踊三題「萬歳」「女伊達」「団子売」を上演。チケットは11月9日午前10時より電話予約(0570・000・489)、チケットWeb松竹で受付開始。

★第六回「五節句の会」〜星まつりから住吉の神へ〜
(10月18日、京都・大江能楽堂)
四季折々の自然への感謝や祈りとともに育まれてきた「五節句」(1年をめぐる5つの重要な季節の節目と無病息災や健やかな成長を願う日本の伝統的な年中行事)にちなんだ伝統芸能を上演する。
五節句は1月7日人日の節句(七草の節句)、3月3日上巳の節句(桃の節句、ひな祭り)、5月5日端午の節句(菖蒲の節句、こどもの日)、7月7日七夕の節句(笹竹の節句)、9月9日重陽の節句(菊の節句)がある。
今回は、重陽の節句にちなんで京舞井上流五世家元で人間国宝の井上八千代が、古希を迎えるにあたり、100歳という天寿を全うした三世井上八千代が最後に手掛けた地歌「菊」を舞う。地歌は菊央雄司。
八千代はビデオメッセージで「天候不順や戦争などの不安定な社会状況の中で、人々の心がちょっと荒んでいるようにも感じられます。公演当日がちょうど旧暦の重陽の節句の前日に当たりますので、重陽の節句にちなんだような曲を舞わせていただけること、本当にありがたいことです。この菊というのはなんやろなと思っている間に済むような曲なんですけど、なんともいえないめでたさみたいなものがあります。こういうのが日本の文化の中にたくさんあるんやないかなと、年を重ねて思っております」と伝えた。
七夕の節句にちなんだ独鼓「天鼓」を能楽シテ方喜多流の高林昌司の謡、能楽小鼓方大倉流十六世宗家で人間国宝の大倉源次郎の小鼓で披露。能「天鼓」に、七夕の古代の文句が出てくることから選んだ。
さらに大阪・住吉大社の小出英詞禰宜を迎えて、井上八千代、大倉源次郎と鼎談。
小出禰宜は「住吉の神様は海神、星神、お祓いの神として信仰されますが、特に和歌の神としても親しまれて芸能とも深いご縁のある神様です。今回、無病息災と延命長寿を祈る重陽の節句にならい、舞台でともに季節の移り変わりを五感で楽しみ、豊かな日々を一緒にお祝いしたい」とコメントを寄せた。
五節句の会は、昨年の大阪・関西万博を契機に大倉源次郎が古来より生活文化に深く根ざした五節句をはじめとする日本の文化の本質を現代において新たなかたちで問い直し、次世代へと継承していくことを志し設立した。
「経済界の若い人たちと話す機会があって、手前味噌ではございますが、経済で作られた文化は経済の衰退によって滅びるけれども、文化で作られた経済は文化が継続する限り非常に腰の強い経済文化を生み出しているということを話し合いました。五節句の時期にコンビニにゆかりの品の販売コーナーができていたりしますのも伝統文化に基づいて経済が動いている証拠なんですね」と話し、伝統芸能でも五節句に基づく生活文化を見直すことが次世代への円滑な継承にも必要だとの見解を述べた。「今回の見どころ、聞きどころは『菊』です。なんとも言えないめでたさと日本文化の豊かさを感じてほしい」と話す。
最後は同会で恒例の「能楽 五人囃子」、小鼓を打つ真似をする「エアー小鼓」も行う。
★市川團十郎特別公演
(10月3―25日、京都・南座)
歌舞伎十八番の名作から新しい趣向の作品まで、この公演でしか観ることの出来ない狂言だてで、歌舞伎の魅力を披露する。
昼の部は、歌舞伎の様式美に富んだひと幕「其俤対編笠・鞘當」を市川右團次、市川九團次、市川男女蔵が出演する。
しっとりとした江戸情緒の中に男女の不思議な巡り合わせを描く世話物(江戸時代の庶民を描く)「与話情浮名横櫛・源氏店」で与三郎を中村虎之介(Aプロ)と九團次(Bプロ)、蝙蝠安を九團次(Aプロ)、市川新十郎(Bプロ)が交代で、お富役を大谷廣松、和泉屋太左衛門役を市川右團次が演じる。
市川團十郎が主君への忠義と覚悟を胸に武蔵坊弁慶を力強くつとめる歌舞伎十八番の内「勧進帳」を上演。兄の源頼朝から逃れて奥州へ向かう源義経一行は安宅の関に到着し、関守の富樫と弁慶が対峙する。
中村米吉の源義経、中村梅玉の富樫左衛門のほかに、團十郎の息子・市川新之助が富樫についている太刀持で出演する。
「市川團十郎家にとって最も大事な演目で、珍しく新之助が太刀持というずっと座っている役を自分でやりたいと言い、私はやったことないんですけども、父親がやるということと高砂屋(梅玉)のお兄様が富樫をするということで勉強したいという意志が芽生えてきたということでしょうね」と話す。
夜の部は「Invitation to KABUKI 歌舞伎の世界」と題して、歌舞伎の様々な魅力を披露する。京都ゆかりの歌舞伎三大名作の一つ「義経千本桜」より「鳥居前」、傾城の艶やかさと獅子の精の踊り分けが見どころの女方舞踊「英執着獅子」、面を用いた独特の趣向と変化が見どころの歌舞伎十八番「七つ面」に多方面で活躍する若手花形俳優が挑む。
「若い方たちがやれる場所っていうのが限られていたりしますので、できないこともあったりしますが、やる気がある人には舞台に立ってもらってお客様に喜んでいただける存在になってもらいたい」と積極的に起用した。
「鳥居前」で佐藤忠信実は源九郎狐を演じる中村鷹之資は「かつてお父様(中村富十郎)に色々と教えていただいた。お父様がいない状況の中で大変なこともあるじゃないですか、チャンスというんですか、ある程度、平等にとみんなで話し合いながら決めました」という。
「ご挨拶」では新之助が本公演の趣向を案内し、「荒事 大力天無双」で團十郎が歌舞伎十八番の内「押戻し」を新しい作品として構成する。
「たくさんのお客様に観ていただくためには、やっぱり努力も必要かなと思います。その上でちょっと新作を作って見ようかなと思いまして」と取り組んでいる。