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大槻文藏
KENSYO vol.112
シテ方観世流 
大槻文藏
BUNZO OTSUKI


 

大槻 文藏(おおつき ぶんぞう)
シテ方観世流。 1942年大阪生まれ。大槻秀夫の長男。 祖父十三、父および観世寿夫に師事。 '47年「鞍馬天狗」花見で初舞台。 '50年「猩々」で初シテ。 '89年「卒都婆小町」、'98年「檜垣」、2007年「関寺小町」を披く。また、「刈萱」「鵜羽」「維盛」「敷地物狂」など多くの復曲能、新作能に携わる。 '96年松尾芸能賞優秀賞、 '98年観世寿夫記念法政大学能楽賞受賞、2000年芸術選奨文部大臣賞ほか受賞多数。 '02年紫綬褒章受章。 '16年重要無形文化財保持者(各個認定/人間国宝)に認定。 '18年 文化功労者選定。

大槻能楽堂  大改修

 長年にわたる能楽界への功績が認められ、昨年、文化功労者に選ばれた。平成二十八年の人間国宝に続く栄誉。文化功労者は、現在の能楽シテ方でただひとり。
 「私でいいのかな、とおこがましい思いがしております」と、この人らしい謙虚な言葉で喜びを語る。
 「いままでより大きな責任を感じています。能だけでなく、日本の文化全体の活性化につながる活動をしていかなければならないと思っています」

 舞台に登場すると空気が変わる。ぴんと張り詰めた心地よい緊張感に花と品格を感じさせる舞台姿、深い解釈、深遠な演技で、現代の能楽界を代表するシテ方のひとりとして大阪を本拠地に東西の舞台に引っ張りだこ。古典では、能の最奥の曲とされる「檜垣」「姨捨」「関寺小町」の“三老女”も完演。つねに、能楽堂を満員にするほどの人気を誇る。
 新作や復曲にも積極的で、何百年も上演が途絶えていた曲を数多く現代に蘇らせ、能の普及、活性化に努めてきた。
 「復曲や新作づくりは、能というものをわかる上で大変勉強になりますね」という。「古典の能の場合、どうしても模倣するものだと思われがちですが、古典でも新作でも、能は創るものだと思うのです。創るという作業をしないと、能は深化していかないのではないでしょうか」
 そういう意味で、今年一月に亡くなった哲学者、梅原猛さんから学んだことは大きいという。梅原さんは新作能として「河勝」「世阿弥」「針間」の三曲を創作。文藏はそのすべてに演出、出演などで携わった。
 「先生が初めて書き下ろされた新作能が、能の始祖といわれる秦河勝を主人公にした『河勝』で、私が演出を担当しましたが、台本の第一稿を見て、驚きました」
 というのも、時代は平成の現代で、詞章は現代語。しかも劇中、梅原猛とおぼしき人物まで登場し、河勝の怨霊の謎を探るために新幹線に乗って赤穂に行くという展開だからだ。
 「先生は、現代語でも能は作れるということを証明されました。能の外枠にこだわらなくても能は作れるんだと。能はこういうこともできる、ということを学ばせていただいたように思います」と感謝の言葉を口にする。
 そんななか、今年七月から、本拠地の大槻能楽堂(大阪市中央区上町)が大規模な改修工事を行うことが決まった。そもそも、同能楽堂は、昭和十年に文藏の祖父、大槻十三が全国初の椅子席の能楽堂として創建。五十八年に、建物の老朽化と耐震・防火対応のため全面的に建て替えた。以来、テーマを決めた自主公演をはじめ、多くの名舞台を生み出してきたが、建て替えから三十六年が経過、諸設備の老化、劣化が進んだことから、大規模な改修工事を行うことになった。座席やトイレなども見直し、現代に合う、より快適な環境の能楽堂に生まれ変わる。
 「能楽堂には文化の発信基地としてパブリックな使命もあると思います。来年の東京五輪・パラリンピック、来るべき二〇二五年の大阪・関西万博を見据え、ここから新たな文化を発信していきたい」
 大槻能楽堂では改修工事にかかる資金のため広く寄付を募っており、四月六日には同能楽堂で寄付を募るための「勧進能」も行う。文藏は、「安宅」のシテ、弁慶を勤める。
 兄の頼朝と不仲になり、奥州に落ち延びる義経主従。途中の安宅の関を突破するため、一行は山伏に姿を変え、弁慶は、主君、義経を命がけの忠義で守り通す。歌舞伎「勧進帳」のもとになった能で、能面をかけず、直面(素顔)で演じる。
 「極限状況におかれた人間が一瞬に下す決断力や知勇を表現できれば」といい、「精神力、身体力ともに大変な曲。今回で舞い納めにします」ときっぱり。
 「勧進能」のもう一曲の能は、観世流シテ方の人間国宝、梅若実の「土蜘蛛」、狂言はベテラン、善竹彌五郎による「仏師」という充実のプログラム。観劇の場合は二口以上(一口一万円)が必要(問い合わせは大槻能楽堂 06-6761-8055)。
 七十代にして、大改修という難事業に立ち向かう文藏にとって、これからの能はー。
 「マイナスの美学でしょうか。レパートリーを少しずつ減らし、舞台上の動きなども削ぎ落としていって、ひとつひとつ充実した舞台を勤めたいですね」
 「まことの花」を咲かせるいま、さらなる高みに向かって歩み続ける。

インタビュー・文/亀岡 典子 撮影/飯島 隆


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