KENSYO>能狂言インタビュー バックナンバー

    KENSYO vol.123
「第51回 花影会」一期一会の「翁附」公演

武田 友志
TOMOYUKI
TAKEDA

武田友志×片山九郎右衛門
片山 九郎右衛門
KUROUEMON
KATAYAMA


■片山 九郎右衛門(かたやま くろうえもん)
シテ方観世流。1964年、片山幽雪(九世片山九郎右衛門・人間国宝)の長男として京都府に生れる。祖母は京舞井上流四世家元井上八千代(人間国宝)、姉は五世家元井上 八千代(人間国宝)。父および八世観世銕之亟(人間国宝)に師事。1970年「岩船」で初シテ。片山定期能楽会を主宰。全国各地で多数の公演に出演する 他、海外公演にも積極的に参加。また、学校教室の開催、「能の絵本」の制作、能舞台のCG化など、若年層のための能楽の普及活動も手掛ける。2011年に 十世片山九郎右衛門を襲名。京都府文化賞奨励賞、京都市芸術新人賞、文化庁芸術祭新人賞、日本伝統文化振興財団賞、京都府文化賞功労賞、芸術選奨文部科学 大臣新人賞、観世寿夫記念法政大学能楽賞を受賞。公益社団法人京都観世会会長、公益財団法人片山家能楽・京舞保存財団理事長。

■武田 友志(たけだ ともゆき)
シテ方観世流。 1974年、武田志房の長男として東京都に生れる。父および二十六世宗家観世清和に師事。
1977年 鞍馬天狗「花見」にて初舞台、1982年「合浦」にて初シテ。毎年5番前後のシテを務め海外公演にも多数参加。
小中学校、外国人、初心者の為のワークショップなど能の普及活動も積極的に行う。現在、公益財団法人 武田太加志記念能楽振興財団理事長。




 「第51回花影会」で珍しい上演形式の翁附脇能(おきなつきわきのう)「白鬚(しらひげ)」が、2022年4月17日、 東京・銀座の観世能楽堂で上演される。
主催する武田太加志記念能楽振興財団の理事長で観世流シテ方の武田友志さんと、 「翁」に続いて脇能「白鬚」のシテを勤める同シテ方の片山九郎右衛門さんに、能の魅力などを聞いた。(以下、武田、片山で表記)

武田  祖父(武田太加志、1907〜85年)が芸術性の高さと深さを求めて1979年に発足した「花影会」を引き継ぎ、財団を設立した2016年からは父(武田 志房)が複数の関係者の意見を基に企画を練り、春と秋に開催しています。春公演は毎年、現在では殆ど行われていない翁と脇能が同じシテという翁附脇能を上 演しています。今回は父が是非、九郎右衛門先生に「悪尉物(あくじょうもの)」(※1)でとお願いしました。
片山  悪尉物といってもそんなに数がないので、 お話を頂いた2、3年前に「白鬚」の曲舞(くせまい)(※2)についての研究公演がありまして、つい申し上げたのですが、 「白鬚」を演じたのはこの時に一度だけで、 能舞台で演るのは初めてです。翁附脇能というのはすごく価値のあることなんですが、脇能を見ていただくということの自分なりのポテンシャルがないと形だけ になります。 「白鬚」は、比叡山に仏教が根付く頃の話。能のなかに広がる悉有仏性(しつうぶっしょう)(※3)ということに繋がってくるようなきっかけのお話で、 能にとって出自的に大切な曲目なんだと知っていただけたらいいなと。
「翁」は天下泰平、国土安穏、五穀豊穣を願う祝祷の儀式で、そういう当たり前のことをどれだけシンプルに思えるかというところに尽きると思います。その気 持ちの中で作っていく脇能ですから、翁たらしめるようなルーツが脇能に繋がっていくんじゃないかと思います。「白鬚」は、結構、ドラマチックで後半には天 女や龍神たちも出てきて楽しんで頂けると思います。
武田 今回は「翁」「白鬚」とも、面装束は片山家からお持ち下さることになっております。

―能楽の面装束も大きな楽しみの一つ。

片山  面(おもて)は何を使おうか、悩んでいるんですけど、ちょっと変わった古い面が4、5年前に手に入っておりまして白鬚に使えるかなと、大きな飛び出しそう な目と髭が特徴的で役行者(えんのぎょうじゃ)を彷彿させるような面です。演じる側も能そのものの雰囲気を作っていく時に能面は大きなファクターになって いくんです。そして装束をそろえていくうちに自分がどういう風に成りきり舞台上で生きていくか、という引き出しが出来て稽古していくというのが一般的な作 り方じゃないのかな、私もそういう風な作り方をしています。お客様も能面や装束をご覧になってその過程を想像して楽しんで頂いているんだと思います。

―コロナ禍の活動について

片山  こんなに長引くと思わなかったのですが、やはり能を通して人と交流したいと思い、慣れないSNSを始め、リモート飲み会で新作を作りたいと話したのがきっ かけとなり、20年前に台湾の友人との話から始まった「媽祖(まそ)(航行や漁業の守護神として信仰を集める道教の女神)」を題材にした新作能「媽祖ー MASOー」(※4)を作ることになりました。資金調達に勧められたクラウドファンディングで、多くの方に応援していただくことができ、4月に上演予定で す。
武田 もともと同世代の友人 仲間と危機感がありまして、映像配信などが遅れていた能楽界でもSNSが広がり、世界中に見ていただけるようになりました。私も苦手ですが一日一回は写真 と文章を発信しています。 自分の研鑽も積まなければいけないのですが、面装束の作り手のことも考えないと廃れてしまうので色んなことを考え実行しているところです。

―能の魅力は

武田 舞台上の緊張感を客席の隅々まで共有して頂けることではないかと思います。お一人お一人が自由に感じていただけば良いのですが、理解しづらいという矛盾点を解消していきたいです。
片山  素朴な語り口で、自分でも気付いていない自分の真実のようなことを曲目の中でおワキの前にみせてしまう。物語の核心が表れて本体が出てくる。複式夢幻能と いう形は能にとって、日本の芸能にとってかけがえのないものだと思う。能の面白さを後輩や若手にも知ってもらい繋いでいってもらえるようなシステム作りも していきたい。

花影会では他に狂言「福部の神」、能「鷺」など、一生に一度見られるかどうかの貴重な演目が並ぶ。
能は、これまで幾度となく危機を乗り越えてきた。お二人も将来を見据え、能狂言の発展に努めている。

(※1)老神など強く恐ろしい表情をした尉の面を用いる脇能
(※2)中世芸能のひとつ。観阿弥が能に取り入れたとされる。
(※3)この世のあらゆる生き物は生まれながらに仏になる素質をもつ
(※4)「媽祖ーMASOー」
             https://www.maso-project.com/




インタビュー・文/前田 みつ恵  撮影/墫 怜治

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