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吉田玉翔

KENSYO vol.125
人形遣い 吉田  玉翔
Yoshida    Tamasho




吉田  玉翔(よしだ たましょう)
1975年12月18日高知県生まれ。1993年11月 初代吉田玉男に入門、 文楽協会研究生となる。1995年4月 吉田玉翔と名のり、国立文楽劇場で初舞台。
2014年4月第42回(平成25年度)文楽協会賞、2020年3月(令和元年度)大阪文化祭賞<第一部門>受賞。2021年、文楽を未来へつなげるための若手中心の企画公演「文楽夢想 継承伝」を立案・プロデュース、文化庁関西元気文化圏推進委員会より「関西元気文化圏賞」の特別賞を受賞。



「文楽をもっと広く知っていただくために」

 舞台姿に華がある。文楽の人形遣いは基本的に影の存在。だが、舞台人であるからには華も必要不可欠だ。入門二十九年。いよいよ中堅の人形遣いとして、少しずつ重要な役を遣う機会が増えてきた。
 六月、大阪・国立文楽劇場で開催された「文楽若手会」では、時代物の大作「絵本太功記」の主人公、武智光秀をスケールたっぷりに遣い、この方面への期待を感じさせた。
 「最初、光秀を、というお話をいただいたときは、やばいなって思いました」と打ち明ける。
 「これほど大きくて重い人形を一段遣うのは初めてでしたので、いい姿勢をキープしたまま持っていられるのか、不安でした」。
 とはいうものの、師匠だった人間国宝の初代吉田玉男をはじめ兄弟子たちも遣ってきた役どころ。「文七」の首(かしら)にふさわしい力強さと信念、家族への情を表現して喝采を浴びた。
 「自分も立役遣いの第一人者だった玉男門下として、立役のスペシャリストの一員に入らないといけないと思っています」と端正な顔を引き締めた。
 そんな玉翔が、昨夏、画期的な自主公演を企画、大きな話題を呼んだ。それが、「文楽夢想 継承伝」(国立文楽劇場)だ。
 眼目は、師匠と弟子が同等の配役で共演すること。「二人三番叟(ににんさんばそう)」では、人間国宝の桐竹勘十郎と、普段その足遣いを勤めている桐竹勘介がともに三番叟の主遣いを勤め、「五条橋(ごじょうばし)」では、毎公演主役の人形を遣うベテラン、二代目吉田玉男が牛若丸を、弟子で足遣いの吉田玉路が弁慶を勤め、舞台上で対峙した。
 弟子の二人は入門約十年の若手。本公演ではありえない配役だ。場内を埋めた観客は、汗をしたたらせながら必死で師匠に食らいつきながら人形を遣う彼らに温かい拍手を送った。
 「この年代で、師匠と対等の配役で共演することは間違いなく勉強になったと思う。お客さまが見ても、きっとおもしろいと思ってもらえたはず」
 自分が若いとき、こういう公演があったら─。そんな思いを、いまの若手のために実現させたのだ。
 だが、自主公演にはさまざまな経費が必要。そこで文楽史上初めてインターネットで支援を募るクラウドファンディングを実施。限定動画など魅力的なリターンを用意、当初の目標額三十万円の十倍以上の金額が集まった。
 「本当にありがたかったです。文楽を応援してくださる方がこんなにたくさんいらっしゃることを心強く感じました。自主公演はリスクも大きいですが、いまの時代、文楽という芸能をもっと広く知っていただくために、僕たち技芸員も積極的にいろんな場に打って出ていかないといけないと思っています」
 今年も8月6日、「文楽夢想 継承伝」の第二弾の公演が国立文楽劇場で開催される。演目は「二人三番叟」「仮名手本忠臣蔵・裏門(かなでほんちゅうしんぐら  うらもん) の段」「傾城恋飛脚・新口村(けいせいこいびきゃく にのくちむら)の段」に、若手の座談会などを予定。
 「去年と一緒じゃないですよ。新しい企画を考えています」とニヤリ。
 企画から出演交渉、チラシ作り、資金集めまで、忙しい公演の合間を縫って、若手を率いて奮闘する日々。「でも今年は二回目なので若手も率先していろいろやってくれています」とうれしそうに話す。
 高知県土佐清水市出身。野球少年だったが、母親が初代玉男の大ファンだったことから、母のお供で文楽を見に行き、初代の楽屋にも出入り。緊張する玉翔に、初代は「学校、行ってんのか」など気さくに声をかけてくれた。
 あるとき、「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」を舞台袖から見せてもらう機会があった。初代玉男が遣う団七九郎兵衛が勢いよく走って引っ込む場面。「足遣いの(吉田)玉佳さんがハアハアと荒い息でこちらに向かってきたとき、アスリートみたいでかっこいい、自分もやってみたいと思ったんです」
 平成五年、初代玉男に入門。初代は七十歳を超えていたが、明るく、よく気がつく玉翔をかわいがり、最晩年、自分が遣う人形の足遣いに抜擢した。
 憧れるのは初代や現・玉男の当たり役。「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」の菅丞相、「義経千本桜」の渡海屋銀平実は中納言知盛、近松作品の二枚目など。それは、品格のなかに、人物の心情を肚芸で表現し尽くす芸である。
 「いつも思っているのは、どんな役でも芝居全体のことを考えて遣うということ」ときっぱり。
 一昨年、コロナ禍で公演が約半年間なくなったとき、人形を遣いたくてたまらなくなったという。文楽きっての二枚目はいま、新たなステージに上ろうとしている。

「文楽夢想 継承伝」公演情報 
https://bunraku-musou.jp



インタビュー・文/亀岡 典子  撮影/後藤 鐵郎



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