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市川 團十郎

KENSYO vol.29
市川 團十郎
Danjuro Ichikawa

〜ゆったりおおらか、江戸の華〜

市川 團十郎(いちかわ だんじゅうろう)

昭和60年に12代目市川團十郎を襲名。市川家の芸である荒事、とりわけ歌舞伎十八番の伝承と再創造に意欲を見せ、「助六」や「外郎売」「暫」「景清」などでの力のこもった芝居は、家の芸にかける意気込みと華やぎを感じさせ、見応えがある。また、二枚目、実事、敵役などで多彩な芸域を拓いている。スケールの大きな芸風は歌舞伎界でも際立っている。 昭和61年松尾芸能大賞、昭和63年日本芸術院賞、平成7年真山青果賞を受賞。

大阪の“夏歌舞伎”の楽しみの一つ「船乗り込み」に市川團十郎さんが、海老蔵時代以来、久々に参加。道頓堀・松竹座の関西・歌舞伎を愛する会第七回「七月大歌舞伎」に、四月の十五代目片岡仁左衛門襲名披露公演に続いて出演する。
「松竹座が出来まして、関西に伺う機会も多くなりましたが、一時、大阪での上演が少なかった時に、歌舞伎を愛する関西の方が中心になって会を作られ、その時に私も呼んで頂きました。現在、このように多く上演出来るというのも、そういう方々の力のたまものだと思いますね」と、感慨深げ。

「船乗り込み」は、かつて江戸や京都の歌舞伎俳優が大阪入りする時に行われていた。その後、途絶えていたが、一九七九年に五十五年ぶりに復活した。毎年、七月大歌舞伎を前に人気歌舞伎俳優やファンが浴衣姿で十隻ほどの和船に分乗し、一時間がかりで市内中央の土佐堀川・淀屋橋から道頓堀川・戎橋までの約三キロのコースで繰り広げる。
船に掲げられた色とりどりののぼりや高張りちょうちん。川面に響く笛や太鼓のお囃子。川岸や橋の上からファンの声援がとぶ。今や浪速に初夏を告げる風物詩として親しまれている。
團十郎さんはアメリカでも船乗り込みをした。「ワシントンのポトマック川なんですけれど、大きな川でちゃっちくなって」と、情景を思い出したのか吹き出した。そして終点では「青い目の人が紙吹雪をビルの上からまいてウエルカムって歓迎してくれましたが、何か変な感じでしたね」という。十二代目を襲名した八五年のこと。船乗り込みは披露公演の前のイベントとして行われた。

今公演は二代目尾上辰之助・五代目尾上菊之助の襲名披露興行でもある。息子の新之助も出演し、「新・三之助」が関西で初めて顔をそろえるのも話題の一つ。
「息子をはじめ、今、やる気がすごくあると思いますので、その気持ちを大事にして欲しい。そして何と言っても続けることが大事だと思います。いいときも悪いときも、四百年という長い歴史の中にはありますからね」と、次代を背負う彼らへの期待は大きい。
團十郎さんは、昼の部は「口上」と「弁天娘女男白波」に登場する。
夜の部では「梶原平三誉石切」に出演。源氏挙兵の軍資金調達のために六郎太夫が平家方の大名に持ち込んだ家宝の名剣の目きき(鑑定)をする梶原平三景時を演じる。分別のある立派な武士を描く実事の代表的な人物。
六郎太夫を諭すくだりや目きき、大名が試し斬りをさせる「二つ胴」など見せ場の連続。梶原が石のちょうず鉢で斬れ味を試す「石切」の場面はいろいろなやり方がある。真ん中を斬るとか後ろ向きに斬るのもあれば、角だけ斬る型もある。團十郎さんは「見た目に派手な」後ろから真っ二つに割る市村羽左衛門系統の型。芸や様式美など主役の魅力でみせる芝居でもある。

團十郎イコール勇壮な人物を演じる荒事のイメージが強い。初代が創始者でもあり荒事はお家芸。その代表的な作品で、七代目が歌舞伎十八番に選定した「暫」を四月に上演した。悪を懲らしめる鎌倉権五郎景政は威風堂々と痛快だった。
だが「荒事ばかりやってるわけじゃないですよ。『寿曽我対面』にしても十郎は荒事、五郎は和事、というように陽と陰の対照的な人物が登場する。『暫』は荒事系統でやってますけど、和事の部分もある。歌舞伎十八番は結構そういう要素を取り入れていますね」と話す。

昨年は中村鴈治郎さんが続けている「近松座歌舞伎公演」にも出演。鴈治郎さんと共演した「曽根崎心中」では優男を好演、色気があった。
「和事の役どころをやらして頂く機会があったものですから。相手(和事)のことが分からないと、自分(荒事)のことも分からない。それと同じで、相手の立場に立ってみてはじめて気づくこともあります」と、積極的に取り組む。

近松座は現代にふさわしい上方歌舞伎の上演を目指している。立ち居振る舞いやしぐさなど上方特有の間と呼吸がある。
團十郎さんの舞台に違和感を持ったことはないが「住んでいる所というのは重要ですね。そこで生まれて育ったということで、においが違いますから。いくら関西弁をまねしても、どこか越えられないものはあります」と言う。芸の奥は深い。
襲名から十三年。「当時は無我夢中でした。今は精神的には余裕が出てきましたが、先輩方がどんどんいなくなったもので、大きな役が多くなり肉体的には大変です」と、冗談ぽく大きな目を細めた。
誠実な人柄は知られている。舞台からも人のよさが伝わる。華やかでおおらか。話していて、ぬくもりが伝わってくる。



インタビュー・文/前田 みつ恵 撮影/八木 洋一



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