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中村 梅玉

KENSYO vol.31
中村 梅玉
Baigyoku Nakamura

気品と遊び心を持ちあわせた人
〜ゲームセンターに今を感じて〜

中村 梅玉(なかむら ばいぎょく)

高砂屋。1946年8月2日、神奈川県にて生まれる。6代目中村歌右衛門の長男。1956年「蜘蛛拍子舞」の福才で初舞台。1966年歌舞伎座で「妹背山」の久我之助、「太功記」十次郎、「助六」の白玉等で8代目福助を襲名。1992年歌舞伎座で「金閣寺」の東吉、「伊勢音頭恋寝刃」の貢で4代目梅玉を襲名。
1992年真山青果賞、1990年芸術院賞など受賞多数。

女性ファンの間で、梅玉さんの髪形が話題になっている。
歌舞伎界の大御所・中村歌右衛門さんの長男。端正な顔だちで、古典の武家社会を描く時代物の二枚目や若衆役がよく似合う。歌舞伎界の貴公子と称され、きちっと七三に分けていた。それが、夏ごろから自然なウエーブがいかされ、「ダンディーになった」という声が聞かれるようになった。
「ちょっと恋をしまして、ハハハハ、ウソですよ」と、ちゃめっ気たっぷり。確かな理由があるのか、ないのか、聞きそびれたが、「ますます、お若くなられた」という印象を話すと、「若い男の役をやる機会が多いので、そういう感覚はいつまでも持っていたいと思いますね」と、仕事に結び付いた答えが返ってきた。

一九九九年の仕事始めは、東京・歌舞伎座公演。一月二日に開幕する「初春大歌舞伎」で、時代物「楼門五三桐」と、庶民の人間模様を描く世話物「天衣紛上野初花・河内山」に出演する。
「楼門」では、主人公の大泥棒・石川五右衛門が育ての親・武智光秀の敵と狙う真柴久吉を演じる。南禅寺山門の上にいる五右衛門と山門の回廊の下にいる巡礼姿の久吉のにらみ合い「天地の見得」がみどころ。短い一幕だが、豪華けんらんな大道具に負けない「俳優としての力量が必要」な作品でもある。
悪の頭領の河内山宗俊を中心に、江戸末期の人間模様を描く河竹黙阿弥・作「河内山」の松江出雲守役も存在感がいる。

一九五六年一月、九歳の時、歌舞伎座で初舞台を踏み、父親のもとで「小器用な役者には、なるな」と厳しく言われ、修業を積んできた。
「成駒屋の歌右衛門家の芸というのは、品格というか、歌舞伎座の大きな舞台に立って様になるような役者になることなんです。だから父もきっと、僕を身近に置いて、歌舞伎座の舞台で修業させたんでしょうし、言われたことは忘れないですね」
歌舞伎一筋でやってきた。これまで、新派公演に主演したくらいで、歌舞伎以外にはあまり出演していない。それが、九八年の夏は、新しい試みに挑む機会に巡り合えた。山梨県清里高原の野外ステージでクラシック・バレエと共演した。歌舞伎俳優の市村萬次郎さんの自主公演「外国人の為の歌舞伎教室」では、中国の伝説をもとにした新作舞踊劇で初めて演出に挑戦した。
「歌舞伎の良さを再確認しました。歌舞伎は全体のバランスとかアンサンブルを考えて役作りをしていきますが、バレエとのジョイントはミスマッチの面白さ。お互いの立場を尊重しながら、精いっぱい梅玉自身をみせることに努力するわけです。その時、テクニックのもとになる役者自身の大きさとか、味わいが歌舞伎の芸だってことを改めて意識しました」
何をやっても「やっぱり自分は歌舞伎役者」だといい、歌舞伎の魅力は「日本人の心が描かれている」ことだという。そして、本拠地である歌舞伎座に若いお客さんが増えていることにもふれた。
「テレビで活躍している歌舞伎の俳優さんの影響もあるでしょうね。それと、西洋の物だけでなく日本の良さを見直そうというムードがあるように思いますね」

歌舞伎は、忠義や忍耐など自己犠牲的な作品もあるが、人と人とのかかわりを笑いと涙で描く義理人情の世界もある。また、現代にも通じる、いや、それ以上に、恋に身をこがして思いがけない行動に出る情熱的な女性も出てくる。
「感覚的に新しい歌舞伎の見方をしているなって、舞台の上で感じる時があります。演出は新たに工夫しないと続かないでしょうね。スピーディーな展開にするとか、いっそ、古風にするとか研究しないといけない。中途半端なところでやっていると、若い方たちには、ちょっと、しっくりいかないみたいですね」
歌舞伎の演出や演技は、様式美がベースにある。長年の伝統の中で、美が追及され、演目に応じて、演じ方や動き方など細部まで決まっている。その形に役の精神(性根)が加味されて型が作り上げられてきた。
「それぞれ研究して、なさっていると思いますが、その型も、伝承されるうちに変化している部分もある。もう一度、原点に戻って、洗いなおす作業もした方が、今のお客さんに合うような気がします」
梅玉さんは、そんな、“今”を、ゲームセンターで感じている。
「若い子たちの中にいると、今のリズムっていうのかな動きが分かる。ゲームセンターの感覚っていうのは、とてもいいですねぇ。これについていけないと思ったら、もう役者としておしまいだと思うから、一生懸命ついていってますけれどね」
格闘技ゲーム・バーチャファイターに打ち込む梅玉さんを見たくなった。



インタビュー・文/前田 みつ恵 撮影/八木 洋一



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