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片岡 愛之助

KENSYO vol.33
片岡 愛之助
Ainosuke Kataoka

立ち役・女形、両方できる役者をめざします。

片岡 愛之助(かたおか あいのすけ)

松嶋屋。1972年3月4日、大阪にて生まれる。13代目仁左衛門の部屋子となり、1981年12月南座「勧進帳」太刀持音若で、片岡千代丸を名乗り初舞台。1992年1月中座「酒呑童子」なでしこ他で、2代目秀太郎の養子となり6代目愛之助を襲名。

関西歌舞伎界のホープ。まだ、わきの役が多いものの、女形と立ち役の両方に配役されて、めきめき力をつけている。
「歌舞伎顔してる」と、よく言われる。片岡愛之助だとわかっている人だけでなく、歌舞伎をよく知らない人にも、例えば、巡業先で、ふらっと入った食堂のおじさんにも言われるそうだ。
「なんとも答えようがないんで、ありがとうございますって言うんですけどね。みなさんは、歌舞伎にどういうイメージを持ってはるんかなと思います」。
端正で、りりしい顔立ち。笑うと目が三日月の形になって、愛嬌がにじみ出る。化粧をすると、まさに“歌舞伎の顔”になる。十五代目片岡仁左衛門さんの襲名披露公演の時のこと。「新口村」で、仁左衛門さんの吹き替えをしたのだが、舞台に姿を見せた時は、仁左衛門さんが二人いるのかと思った。
最近、少し、顔がふっくらしてきた。「やせていると、女形は老けて見えるんです。恰幅のあるお腹にあこがれるんです」。ファンにとっては、太って欲しくないはずなのに。
やせていると、人にはわからない苦労がある。綿の入った肌襦袢を付けたり、腹に巻かなくてはならない。動きにくくもあり、汗をかくことで余計にやせてしまうという。美しい舞台を作る努力は並ではない。

七月二日から二十七日まで、大阪・松竹座で行われる「関西・歌舞伎を愛する会」第八回公演「七月大歌舞伎」に出演する。
「関西で歌舞伎を育てる会」という名前で、この会が発足して二十年を迎える記念の公演でもある。昼の部の祝いの舞踊劇「お祭り」に出演する。ほかに、「菅原伝授手習鑑・賀の祝」の若妻役、夜の部では「極付幡随長兵衛」の侠客の子分役と舞踊劇「流星」の織女役を演じる。
「いろんな役を勉強させて頂き、少しでも先輩に近付きたい」と、真摯に取り組む。 「極付幡随長兵衛」の子分役は何度か経験したが、それとは、また違う子分の役だ。だから「厳密に言うと、全部、初めての役」になる。
歌舞伎は、先輩から“役”を「盗む」のが基本で、細かい部分は教わる。
「大抵は、父(片岡秀太郎さん)に教わります。父が『わからないなぁ』というのを聞いたことがないですね」と、絶対の信頼を置いている。しかし、同じ役でも、主役や共演者が代わると「息が違うんで微妙なところが変わってきます」

サラリーマン家庭で育った。「塾の代わり」に通っていた児童劇団から歌舞伎の子役に起用され、九歳の時、秀太郎さんに声をかけられ、十三代目片岡仁左衛門さんの部屋子になった。公演がある時は、学校を早退して出演。そうこうしているうちに、「いつのまにか歌舞伎が生活の一部」になっていった。
大学に進学するかどうか悩んだが、両立は難しいと思ったという。「どっちがおろそかになっても、いけないですしね。それやったら芝居だけにしようと決めました」。おっとりした外見とは違い、やるからには、最後までやり通さないと気がすまない性格のようだ。そして一九九二年に秀太郎さんの養子に迎えられ、六代目愛之助を襲名した。

今、関西でも歌舞伎は盛況だ。松竹座の開場もあって若手の活躍の場も増えた。昨秋、京都・南座で上演された「宿無団七時雨傘」で主人公の相手役の遊女・お富役に抜てきされた。あでやかで、かわいいお富だったと、評判も良かった。四月には、同じく南座の歌舞伎鑑賞教室で、「義経千本桜・吉野山」の佐藤忠信、実は源九郎狐に挑んだ。上村吉弥さん演じる静御前との道行を舞踊化した作品で、二人の美しさに客席からため息がもれていた。楽屋口には、愛之助さんを待つファンの列ができていた。六月の鑑賞教室では、同じ「義経千本桜」の「すし屋」の娘・お里役で関西各地を巡演した。
「公演が終わるたびに、もう一回この役をやりたいと、毎回、思いますね。子供のころ、十三代目仁左衛門さんの舞台をそばで見ていましたけど、『一生、修業や』とおっしゃって、役のことばかり考えてはりました。その人(役)は何を考えて、回りの人たちとはどういう人間関係なのか。でも性根をはき違えてなければ、大胆な言い方をすれば、何をやってもその役なんですよ。だけど、この役は僕はもう出来たと思うことは、多分、一生ないかもしれませんね」

公演のない時は、秀太郎さんが講師を務めている松竹座の「上方歌舞伎塾」を手伝っている。「父が手取り足取り教えているのを見ているだけでも勉強になります」
謙虚なだけではない。「立ち役と女形、両方が出来る、上方のにおいがする役者」を目指し、学ぶことにどん欲で、きまじめな生き方を言葉の裏に感じた。
今年は歌舞伎以外にも、十月東京・明治座、十一月名古屋・御園座で行われる北大路欣也の座長公演「忠臣蔵」に浅野内匠頭役で出演することが決まっている。
さらなる躍進に期待が集まっている。



インタビュー・文/前田 みつ恵 撮影/墫 怜二



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