KENSYO>歌舞伎・文楽インタビュー バックナンバー
中村勘太郎

KENSYO vol.81
 中村 勘太郎
KANTARO NAKAMURA

一期一会、出会いのちから。

中村 勘太郎(なかむら かんたろう)

中村屋。1981年10月31日東京に生まれる。十八代目中村勘三郎の長男。’86年1月『盛綱陣屋』の小三郎で初お目見得。’87年1月『門出二人桃太郎』の桃太郎役で二代目中村勘太郎を名のり初舞台。その後、様々な役柄で活躍し注目を集める。また、歌舞伎以外のジャンルにも挑戦、初主演映画「禅ZEN」や三谷幸喜の書き下ろし舞台「ろくでなし啄木」などでもその演技が高く評価される。2003年真山青果賞新人賞、2009年読売演劇大賞杉村春子賞などを受賞。2012年に六代目中村勘九郎を襲名。

―「九月松竹大歌舞伎」ご出演演目への意気込みを教えてください。
 歌舞伎の踊りの大曲のひとつで、曲も素晴らしく演出も色々バリエーションがる道成寺物の中で、「男女道成寺」は男と女を曲に乗って踊り分けるのが眼目です。弟と一度巡業で踊らせていただいたことがあるのですが、本興行では初めてなので華やかにできたらいいなと思います。  「文七元結」は(シネマ歌舞伎の撮影で)山田洋二監督が入って下さってからは落語の要素も入って、人間模様や心のキャッチボールがより濃密になっているので、そこを見ていただけたら。大阪のお客様は本当に人情が厚いというか、人と人との交わりや関わり合いを大切にしているし、すごく近いじゃないですか。江戸の芝居ですが、すごく人間と人間の情の感じが分かりやすくなっていると思うので。山田監督との時に、大川端で揺れる柳の枝よりも風に飛ばされてしまいそうな文七を作りました。カットごとに表情や間が舞台とは違ってくるのを意識しましたが、舞台ではそれをちゃんと心に入れながら演じているという感じです。  「一本刀土俵入」もすごくいい作品です。これも江戸の芝居ですが、お相撲さんになりたかった人が挫折してやくざになって、取的(※1)の時に恩をくれたお蔦さんに恩返しがしたい一心で彼女のもとを訪れて助けるという、すごくシンプルな話です。一度浅草でやらせていただいて好きな役ですね。  歌舞伎の魅力のひとつに、ジャンルが広いということがあります。昼夜とも時代物・舞踊・世話物と続く見取り狂言ですので、歌舞伎の魅力をパッと見やすいと思います。

―「文七元結」では本興行で久々のお父様との共演となりますね。
 九月興行で復帰するのが初となるので、嬉しいですね。「文七元結」はうちの父とは何度もやっているので、たぶん稽古なしでもその場でいけるくらいだと思います。また一層パワーアップして帰ってくると思うので、しっかり受けとめて演りたいです。  今度勘太郎っていう名前で大阪に行くのが最後なので寂しい気分もありますが、また勘九郎という、うちの父が大きくした名前を継いでお目にかかれればと。大阪の中座で父は色々な役をやらせてもらって、そこから火がついて歌舞伎ブームが興ったりしたので、大阪のお客様を父は大切にしていますし、大阪の人々からも愛されているので、僕のことも身近に感じてくれればいいなっていうのはすごくありますね。

―大阪のお客様は反応もダイレクトですよね。
 同じ演目を東京と大阪でやると、違うっていうのはすごく思いますね。「ろくでなし啄木」(※2)なんかも全然反応が違ったので。だからそこでお客様のチャンネルにこちらも合わせていかなければならないっていう作業が楽しいですよ。間とかも全然違いますし。

―ご兄弟で続けられている「錦秋特別公演」。和太鼓の林英哲さんと津軽三味線の高橋竹童さんとのコラボレーションは一昨年に引き続き2回目です。
 合うのかなと思いながらやってみたら、やっている僕たちが本当に楽しかったんです。何よりもお客様がすごく盛り上がって下さって、反響が大きかったので今回再演ができ、楽しみです。歌舞伎と太鼓と三味線って、ひとつずつ見に行けば見られますが、これはいっぺんに三つの和文化を体感できるので、無茶苦茶お得だと思います。一回目が良かったものの再演ってすごく難しいんですよ。比較対象がありますし、次はどうなるのかと楽しみにしているお客様もいるので。よりバージョンアップしてモチベーションを高くやりたいです。

―こうしたコラボレーションをはじめ、新しいことにも積極的に取り組んでおられますね。
 この時代の色々なところにアンテナを張って、自分から発信していかないとだめだと思うので、歌舞伎のためというよりも自分自身の成長というか心の栄養というか。やっぱり人と人との出会いとか作品との出会いがすごく大きくしてくれるので、そのつながりを大切にね。出会うことって大切だなっていうのはいつも自分自身の中で思っているので。いい出会いでも悪い出会いでもまず出会ってみなければ分からないので、積極的に自分がスポンジのように色々な水分を吸収して、いつかぎゅっと絞った時に色々なものが出るような役者になれればというのはありますね。

―2012年の襲名を控え、伝統や芸を〈受け継ぐ〉ということに対しての意識は変わられましたか。
 例えばひとつの役をやる時に先輩の方とかに習いに行くと、本当に惜しみなく、すみずみまで教えてくれるんすよ。普通自分が手掛けたものって、ちょっと言いたくないなっていうのがあるじゃないですか。それをもう本当に手取り足取り詳しく教えてくれるっていうのは、ものすごいことだし、それを次に繋げていかなければいけないなっていう思いは感じ始めました。教わったものをしっかり次に教えることができるようになりたいなっていうのはありますね。

―勘太郎さんの舞台からは、先輩方の芸を確実に受け継いでいると同時に、役を身近に感じさせてくれる同時代的な感覚を覚えます。
 そこが一番大事だと思いますね。共感じゃないですけど「ああ、こういう人いるな」っていう風に思わせないと。もちろん、嘘をやっているわけですけれどもリアルにも見えなければいけないし、お客様をこっちの世界に引きずり込まないといけない。キャラクターをしっかり持ってやらないと芝居というのは成立しないものだと思っていますね。

―一ヶ月の興行を通して演技が安定されている印象があります。
初日に観に来るお客様だって千秋楽に観に来るお客様だって同じ値段払っているわけですから、完成度は初日に向けて高くしていかないといけないと思っているので。一期一会だし、わざわざ劇場に足を運んで、それがもしかしたらその人の記念日かもしれないっていうのもあるし。一人一人の気持ちを大切にやらなければ伝わらないのでね。

無数の観客一人一人との出会いを大切にしてくれる勘太郎さん。そんな彼の舞台に出会える観客は幸福だ。人、作品、そして観客。ひとつひとつの出会いが彼をさらに輝かせる。進化し続ける彼にまた新たに出会うため、劇場に足を運ぼう。

※1 下級の力士 ※2 三谷幸喜脚本・演出作。

インタビュー・文/平岡 桃



ページTOPへ
HOME

Copyright(C) 1991-2008 SECTOR88 All Right Reserved. 内容を無断転用することは、著作権法上禁じられています。
セクターエイティエイト サイトマップ