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豊竹嶋大夫

KENSYO vol.88
歌舞伎30 尾上 松也
Matsuya Onoe

歌舞伎俳優が自分の根幹だが、
一俳優として、可能性を試してみたい

尾上 松也(おのえ まつや)

音羽屋。1985年1月30日東京に生まれる。父は六代目尾上松助。’90年5月歌舞伎座「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目尾上松也を名乗り、初舞台。2009年に自主公演「挑む〜若き歌舞伎役者の舞〜」を主催、年1回のペースで継続している。歌舞伎以外にも蜷川幸雄演出の舞台「騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談」(2012年9月・10月)や、BS朝日「京都1200年の旅」に出演、幅広く活躍している。
1991年、’93年、’96年国立劇場特別賞、’93年歌舞伎座賞、2001年日本映画批評家大賞新人賞受賞。

歌舞伎界はもっか、フレッシュな花形若手が大活躍。十代、二十代の若者たちが爽やかで懸命な舞台を繰り広げ、新たなファンを魅了する。
そんななか、女性たちの熱い注目を集めているのが尾上松也、二十八歳。長身、色白の二枚目で、甘く精悍なマスク。何より舞台姿に華があり、立役も女形もこなす“新星”である。
「最近は自分の中でも思ってもいなかったような、お役をいただくことが増えて驚いています」
今年一月の東京・新春浅草歌舞伎では、「寿曽我対面」で、荒事の典型ともいえる曽我五郎を勇壮に。二月の大阪松竹座では、新作歌舞伎「新八犬伝」で八犬士の犬塚信乃と、「GOEMON」のスペイン人神父カルデロンを芝居心たっぷりに勤め、関西の歌舞伎ファンに強烈にアピール。
「僕は最初、女形から修業しましたので、立役では若衆や二枚目は想定内なんですが、まさか真逆の五郎をやらせていただくとは…。ノーマークでしたね」と笑う。
とはいうものの、長身を生かしたダイナミックな演技で荒事に挑んで成果を上げた。「大きな声を出し、力強く足を踏み出すことの気持ちよさを知りました。ただ、力みすぎると形が崩れ、形を意識しすぎると気持ちがおろそかになる。難しさも痛感しました」
一方のカルデロンは、キリスト教の布教のため日本にやってきたスペイン人神父。金髪っぽいロングヘアは古典歌舞伎には登場しないキャラクター。斬新さに目を見張った。
「外見も自分で工夫して取り組んでみました。型のない新作では、一人一人がプランを持って取り組むことが大切だと思います」
父は平成十七年に五十九歳の若さで亡くなった六代目尾上松助。江戸の粋でいなせな匂いを滲ませ、菊五郎劇団になくてはならない立役であった。
子供の頃から父の舞台を、「かっこいいなあ」と、見て育った。しかし松也本人は、子役を卒業する頃、アメリカで俳優としてやっていきたいという夢を持つようになる。
きっかけは中学一年生のとき、リバー・フェニックス主演の映画『スタンド・バイ・ミー』を見て衝撃を受けたこと。アメリカの演劇学校で演技の勉強をして映画や舞台で活躍したい。当時は渡辺謙のようにハリウッドで活躍する日本人俳優はほとんどいない時代だった。「僕が入る隙はないと思っていましたが、それでも挑戦してみたかった」
父・松助の答えは「高校を出てから考えなさい」。
ところが中学卒業後、松竹から歌舞伎の舞台出演の打診があり、「日本の伝統芸能を三年学べば、外国で武器になる」と考える。
再び、歌舞伎の舞台に立ったとき、雷に打たれたように考えが変わった。
「歌舞伎って堅苦しく思われがちですが、実はとっても斬新で、かっこいい。せっかく歌舞伎俳優の子に生まれ、チャンスがあるのなら、やってみるしかないと思った」
それからは快進撃が続く。当初は細身の体とやさしい顔立ちを生かして女形を中心に修業していたが、近年はスポーツマン体型になったこともあり、立役の割合が増えつつある。
「昔は女形はあまり好きじゃなかったんですよ。思春期ですし、僕自身は男っぽい性格。でも歌舞伎俳優の基本は女形。今はやっていて良かったと思っています。女形も大好きになりました」
昨年4月、新橋演舞場「四月花形歌舞伎」で、通し狂言「仮名手本忠臣蔵」に出演。役どころは塩冶判官の妻で、高師直から言い寄られる顔世御前。彼女がきっぱりと師直からの恋文を断ったことから師直は殿中で判官をいじめ抜き、それが事件の発端となる。
「『仮名手本忠臣蔵』自体、歌舞伎界では特別大事にされている作品。演技の型や芸談以外にもさまざまな言い伝えや口伝があって、そういう宝物みたいなお話を先輩方から伺えたことも感動でした。歌舞伎って、精神的な部分がとても大切で、その重みを感じつつ、自分もいずれ後輩に伝えていかねばならないと思った」
いま、活躍の範囲は飛躍的に広がりつつある。四年前から年に一回、自主公演「挑む」シリーズを開催。今年も八月二十二日・二十三日に予定している。九、十月にはミュージカル「ロミオ&ジュリエット」にロミオの友人、ベンヴォーリオ役で出演することも発表された。
「もちろん、歌舞伎俳優が自分の根幹だが、一俳優として、可能性を試してみたい」
未来を見つめる眼差しは希望に満ち、輝いている。



インタビュー・文/亀岡 典子 撮影/墫 怜治



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