演者



能が上演される時、能舞台の上には大きく分けて、登場人物を演じる役「シテ方・ワキ方・狂言方」、合唱を担当する役「シテ方」、楽器を演奏する役「囃子方」が登場します。 シテ方、ワキ方、狂言方、囃子方という4つのパートの能楽師たちが、それぞれの役割を専門に演じることで1つの能が上演されています。



■シテ方

シテ方には5つの役割があり、その中の1つの役を専門に受け持つのではなく、それぞれの役割をその都度分担していきます。


1.シテ 主役のこと。1つの能に1役だけ。
“演技をする人”“役者”という意味がある。
2.ツレ 主にシテの同伴者であるが重要な役の場合には特別にシテと同格扱いをされ、「両シテ」とされることもある。
3.子方 子役のこと。必ずしも子供の役だけではなく、本来は大人である役を演じたりする能独自の演出もある。
4.地謡 斉唱を担当する役。情景描写をしたり、登場人物の心情を代弁する。
6〜10人編成で後列中央に座る「地頭」がリードする。
5.後見 演能中に舞台後方に座り、不測の事態に備えて舞台進行を見守る役。
シテの装束を整えたり、時にはシテの代役も勤める。


シテ方の流派

シテ方には観世流、宝生流、金春流、金剛流、喜多流の5流派があり、能の演目、謡の言葉、謡の節、所作、演出、装束などに違いがあります。




流祖は室町初期に奈良で栄えた大和猿楽の観阿弥。その子世阿弥は演者、作者、理論家として多大な功績を残す。この父子によって能は大成され、江戸時代にはシテ方筆頭の地位を与えられ、現在もシテ方の最多数が所属する。優美で繊細な芸風をもつ。


流祖は観阿弥の長兄、宝生大夫。室町末期には小田原の北条氏に保護されたという。江戸時代には5代将軍綱吉、11代将軍家斉に愛好された。古くから観世流と縁戚関係にあり、芸風も近い。東京や北陸に基盤があり、華麗な謡を重視した重厚な芸風をもつ。


5流の中で最も古い家柄。東京や奈良を本拠地とし、興福寺や春日大社との関わりも深い。
世阿弥の娘婿、金春禅竹は能作者、理論家として活躍。桃山時代には豊臣秀吉に後援された。
古風な様式を残したのびやかな所作や拍子にこだわらない自在な謡が特徴。


古くから法隆寺に属した坂戸座が源流とされる。能「土蜘蛛」の千筋の糸を創案した金剛唯一などの人物を輩出。昭和11年に宗家が途絶えたが、弟子家の野村金剛家が宗家を継承し、京都や東京を中心に活躍。写実性と“舞金剛”と言われる豪快な舞に特徴がある。


流祖の北七大夫長能は金剛座の役者であったが、徳川秀忠の強力な後援を得て独立し、
室町時代から続く従来の4流派に加え新たに喜多流創設を認められた。
地方大名に支援され、芸風は武士道的精神主義が強く、素朴かつ豪放な気迫に満ちている。


■ワキ方

主役を演じるシテの相手役のことで絶対に面をつけません。 宝生流、福王流、高安流の3流派があります。


シテの
相手役
最初に登場し、場所・季節・状況など全体の雰囲気を作り上げ、観客を物語の世界に誘う。主役のシテが登場すると、シテの演技を引き立てていく。
シテの
対向者
シテと対等に物語を展開する役。鬼神を退治する武士、悪霊を祈り伏せる僧、シテが探し求める役などさまざま。


■囃子方

楽器を演奏するのが囃子方。囃子方には笛方、小鼓方、大鼓方、太鼓方の4つのパートがあり、それぞれが自分の楽器を専門に演奏します。 演能では笛方1人、小鼓方1人、大鼓方1人、太鼓方1人の4人編成で、能の演目によっては太鼓方が入らない場合があります。 主にシテ、ワキ、地謡が謡う時やシテやワキが登場する際、舞を舞う時に演奏します。



左より太鼓、大鼓、小鼓、笛
囃子方の流派

笛  方:一噌流・藤田流・森田流

小鼓方:大倉流・観世流・幸流・幸清流

大鼓方:石井流・大倉流・葛野流・観世流・高安流

太鼓方:観世流・金春流



■狂言方

多くの能は前半と後半に場面が分かれています。
その間をつなぐのが狂言方の仕事で、間(アイ)狂言といわれます。
また、能とは別に独立した劇としての「狂言」を演じます。
大蔵流、和泉流の二流派があります。



能「土蜘蛛」アイ狂言 ササガニ
[間狂言]
能の登場人物として
(1)能の前場面と後場面をつなぐ役
(2)能の最初に登場し、開演の糸口を与える役
(3)シテやワキなどと関わり物語の展開に加わる役などがある。


[狂言]
独立した劇としての「狂言」を演じる役
狂言とは、南北朝時代に成立した中世的庶民劇で、日常的な出来事を笑いを通して表現するセリフ劇。
演目は、200以上あり、物語や登場人物は多岐にわたる。


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