みつ恵の演劇の楽しみ
(演劇ライター・前田みつ恵)
2026年5月13日
松竹が現在、上演中の「御名残五月大歌舞伎」(―26日)を最後に、大阪松竹座の建物を老朽化による修繕費増大のため解体すると発表しました。芝居街として発展し伴って食文化の礎ともなった道頓堀の歴史的な背景がある。今後、存続に向け検討して行くとしている。
歌舞伎公演は来年1月の大阪・新歌舞伎座が決まっている。巡業などを行ってきた大阪・岸和田の南海浪切ホールもある。気がかりなのは大阪を拠点とする「上方歌舞伎」の今後だ。
★5月恒例「歌舞伎鑑賞教室」(5月15日―24日、京都・南座)
浪曲師の真山隼人による解説「歌舞伎の魅力」と「正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)」は曽我五郎時致を片岡千次郎、小林妹舞鶴を上村吉太朗が演じる。父親の仇を討とうとはやる五郎を小林朝比奈の妹・舞鶴が力づくや男女の恋模様をしおらしく語るなどして引き止めようとする様が描かれる。長唄の名作舞踊。
★クラブSOJA企画狂言会「お豆腐の和(わ)らい2026・大人も子供も狂言入門」(5月23日、京都市左京区の京都観世会館)
京都を拠点に活躍する能楽狂言方の茂山千五郎家のファンクラブ・クラブSOJAの公演。茂山千五郎家は「お豆腐狂言」を家訓としている。二世千作(十世千五郎正重)の時代に色々なところへ出かけて狂言をしていたのを「豆腐のような奴」と言われた悪口に由来するが、「味付けで高級にも庶民の味にもなる豆腐のように、どんな所でも喜んでいただける狂言を演じ、より美味しいお豆腐になるように努力すればいい」と逆手にとったのが始まりで語り継がれている。
今回は「大人も子供も狂言入門」をテーマに、室町時代の庶民文化である狂言を解説も交えて、昼と夕方の部で違う種類の狂言を3曲ずつ、初めて狂言を観る人にも面白くてわかりやすい内容で時間も1時間半と短め。「気軽に観ていただきたい」と茂山千五郎。
昼の部は、茂山逸平が解説する。
「墨塗」は訴訟が解決して故郷へ帰る大名(茂山茂)が京都で馴染みになった女(鈴木実)に別れを告げにいく。太郎冠者を増田浩紀。大名狂言。
「太刀奪」は北野天満宮の祭礼に行った太郎冠者(茂山宗彦)が忠義心から男(井口竜也)の立派な太刀を奪おうとして逆に主人(松本薫)の小刀を奪われる。小名狂言。
「神鳴」は都の藪医者(茂山千五郎)が東へ下る途中、雲行きが怪しくなり、雷(茂山蓮)が飛び出してくる。擬人化した雷のおかしみを描く。鬼狂言。
夕方の部は、茂山千五郎の解説。
「雁礫」は、大名(茂山竜正)が狙っていた雁を、通りかかりの男(増田浩紀)の打った礫が命中、大名は自分の獲物だと言い張り争いになる。仲裁人を茂山あきら。大名狂言。
「濯ぎ川」は、妻(茂山虎真)と姑(茂山千之丞)にこき使われている夫(山下守之)が箇条書きされた用事以外はしないとの約束を取り付ける。そして洗っていた小袖を川に流す。女狂言。
「六地蔵」は、田舎者(島田洋海)が新築の地蔵堂に六地蔵を安置するために都へ仏師を探しにいくがすっぱ甲(茂山逸平)にしてやられる。すっぱ乙を茂山鳳仁、すっぱ丙を
茂山慶和。出家狂言。
企画制作から会場の準備、チラシ制作、当日の会場内でのスタッフに至るまで役者が担う。昨年、大曲「釣狐」を初めて演じて披き“大人”の狂言師の仲間入りを果たした茂山竜正と茂山虎真が企画委員に初めて参加した。
竜正は「どういったお客さんに向けてテーマをもって企画を作り、演目や配役を決めていくところが意外に考える事が多いと感じました」。虎真は「演目の選択では過去の公演と被らないように配慮することやコンセプトによってチラシのイメージも内容も変わることを学びました」と話した。
千五郎は「数字としては出ていませんが、竜正、虎真という若い世代が出演し、委員会に入って携わる事で次の世代に移り変わっていることを感じています。お客さんとしてどうなのかは若い世代がどんどん出て行くことによって見えてくると思います」と新たな手応えがあった。1997年に後援会からクラブSOJAに名称を変えて発足した。
「いろんな企画をやってきました。『大人も子供も狂言入門』は2022年から4回目です。会員だけでなく一般の方にも来ていただけるように門戸を広げて続けて行きたい」とも。
★創流二百二十年 山村流「舞扇会」(5月17日、大阪・日本橋の国立文楽劇場)
日本舞踊・上方舞山村流は、流祖・友五郎の名前が初めて歌舞伎番付に振付師として載った文化3年(1806年)を創流の年と定め、友五郎が振り付けした歌舞伎舞踊と座敷舞(地唄舞)を大きな柱として活動している。
今回は「劇場でしかできない地唄舞で、普段の座敷舞とは異なる劇場空間での表現に重点を置いた地唄と上方唄の19番で構成しました」と言い、山村流六世宗家の三代目山村友五郎は2019年に初演した地唄「貴船」を第二部で舞う。
能「鉄輪」を題材にした恋の恨みや嫉妬を描く。夫に捨てられた女性が復縁を願いつつも夫と後妻を呪い殺す為に丑の刻参りで知られる貴船神社へ参る。祈りを捧げるうちに情念が勝り人間から鬼へと変わっていく。恨みや悲しみを抱えながらさまよう女性の悲劇的な心情が表現される。
友五郎は「舞の型は強い振りがついていますが、そのまま強くすると違うなと最近感じるようになりました。強さの中に優しさや悲しみを表現しないといけないと思い、型にとらわれすぎずに正反対のことを表現方法として持って、その曲と対峙して行くことを数年前から考えるようになりました」と話す。
山村流について「大阪という土地に根付き、大阪の街の人たちと一緒に220年続き、大阪の文化の中に溶け込んでいる流儀です」と言い「自分が陣頭指揮を執れる最後の大きな機会かと思います。舞踊家として物理的にもあと10年かな。家元を預かり、歌舞伎舞踊と座敷舞の両輪でやってきて、後を息子たちに託すんですけど、その次、その次を見据えて習ってきたもの感じてきたものをどうやっていくか、ポテンシャルと同じで今教えないといけない、伝えないといけないと初めがむしゃらにやってきたことを、一線を引いた目でやって行きたいと思っています」と将来を見据えている。
後継の山村若は「父が復活や新しいもの、昔から続いているものを改めて固めることをたくさんしているので、それをしっかりと受け継いで、さらに発展させて行きたいと思っています」、山村侃は「家元しかしてない踊りが結構あるので、それをどんどんやって行きたい。チャレンジ精神のあるお弟子さんが出てくることを期待し、クッションとして次代に繋いで行く役割を果たしたいと思います」と話している。
友五郎は幕開けの第一部は地唄「八千代獅子」を山村若鈴、第二部は地唄「石橋」を元宝塚歌劇団の山村友里と舞う。若は地唄「廓万歳」(二部)、侃は地唄「菊慈童」(一部)、友五郎とともに山村流を支えてきた妹の光は地唄「ゆき」(一部)と地唄「きぎす」(二部)を山村若有子と、名取を許された落語家の桂吉坊こと山村若太津が地唄「屋島」(二部)を舞う。
★5月公演「おだまり、お辰!」(―31日大阪・新歌舞伎座)
時は明治、田舎の村で育ったお辰(藤山直美)、麟太郎(吉田栄作)、銀蔵(柄本明)の3人は、夢と恋と勘違いを胸にそれぞれ東京へ行く。10数年後、夫亡き後、慈善事業に勤しむ伯爵夫人・栗栖川貴子(高畑淳子)の女中となったお辰は、気位の高い貴子と主従を超えた絆を育んでいた。執事の平井塀吉(ベンガル)や貴子の甥の澤木誠之助(岡本圭人)も絡み、賑やかな屋敷に幼馴染の麟太郎が現れる。そこへ政財界の大物となった銀蔵も加わり大騒ぎとなる。
「台本の句読点まできっちり覚えないと気が済まない」という高畑、「記憶力に衰えを感じる」そうな柄本とベンガル。かっこいい吉田、新鮮な岡本らがそれぞれの個性を発揮して挑むドタバタ喜劇で笑わせてくれる。
直美は「劇団とか映像とかそれぞれ全然違うポジションで、私は喜劇の役者ですし、それが一つに集まってお客さんに喜んでもらうものを作らせてもらう。お芝居の解釈も違いますでしょうし、生きてきた人生も違いますから感覚的な解釈も違ってくると思うんですけども融合して譲歩して一つのものを作り上げたい」と話していた通り、それぞれの個性が一体となって笑いを誘う。
★兵庫県立ピッコロ劇団第85回公演「走る本屋と星降る島」(5月29−31、6月6、7日兵庫・尼崎のピッコロシアター)
海と星、豊かな自然に引かれて離島に移住しようと考えた翻訳家の浜辺(木村美憂)が住民らと交流を深める中、ある夜、神社の境内で「あり得ない存在」に遭遇する。
演出の岡田力は「小豆島にあるような海の道(エンジェルロード、陸繁砂州とも呼ばれる)が登場します。大きく潮が引いたときにしか現れず、普段は波の下に消えている道です。様々な道を行くか行かないか、登場人物それぞれの『道』を描きたい」と話す。
作・伊地知克介。出演は菅原ゆうき、木下鮎美、浜崎大介、岡島大祐ほか。