大阪松竹座の最後の公演「大阪松竹座さよなら公演 御名残五月大歌舞伎」が千秋楽を終えて1週間が過ぎた。運良くチケットが手に入り観劇。普段なら無事に千秋楽を迎えられて「おめでとうございます」と祝うのだが、今回は「おめでたいのだけど寂しいね」という声が聞かれた。いつもと違ったのは観客のほとんどが前のめりで芝居に集中している息遣いを感じさせたこと。
盛綱と父親の役に立とうと懸命な幼い甥・小四郎のやりとりが健気で切ない「盛綱陣屋」で泣かせ、乗りのいい元芸者と心中をしようと言い出す旦那のやりとりが面白おかしく描かれた「心中月夜星野屋」で大いに笑わせた。最後に上方歌舞伎の名作場面を織り込んだ「當繁招西姿繪(つなぐわざおぎにしのすがたえ)」は感慨深かった。終幕後、幹部俳優も登場して「必ず道頓堀に松竹座の櫓を立てたい」と片岡仁左衛門が挨拶、観客と一体となって大阪締めで締めた。2度のカーテンコールで最後に写真OKとなり20時44分に終了した。
劇場を出てからも去り難く、初めて出待ちの様子を少し離れた場所から見ていた。笑顔で手を降りお辞儀をしながら帰っていく役者さんの姿を見送っていたら、外国からの観光客らしき人に「どこかのトップですか」と声をかけられた。こういう光景ももう見られないんだなと思った。開場から取材してきたからか、中座が閉館になった時とは違う感慨、名残惜しさが今も残る。
例年なら関西・歌舞伎を愛する会が尽力してきた七月大歌舞伎の船乗り込みの予定がそろそろ出る頃だけれど、今月から大阪松竹座の情報を書くことはなくなった。
★南座特別公演 坂東玉三郎 出演(6月5―17日、京都・南座)
「30年近く、南座で舞踊会を開かせていただいておりますが、これまでに出ていない『秋の色種』と『時雨西行』を踊ります」と人間国宝の坂東玉三郎。長唄の名曲を選んだ。
「秋の色種」は、1845年にお祝いの曲として作られた。秋の草花や自然の美しさなど日本情緒を表現する名曲。玉三郎は舞踊家の花柳壽輔に振付を依頼して2016年に初演した。その後、若手俳優らと3人で踊るなど再演してきた。
「曲があまりにも良かったばかりに、なかなか舞踊にならなかった。虫の合方(秋の夜の寂しい情景などを演出するために唄が入らずに三味線と鳴物だけで演奏される間奏)の部分が素敵なんですが踊りにくいんです。どういう風にしようかということでそこを箏の演奏でしたこともあるんです」と話す。今回は3人で踊り、弟子の坂東玉朗と坂東玉御が箏の演奏もする。
「時雨西行」は、謡曲「江口」を題材に1846年初演。玉三郎は1997年に藤間勘十郎の振付で初演した。今回2度目。花柳壽輔が振付を担当、西行役をつとめる。
西行法師が時雨にあい一夜の宿を借りた家で遊女・江口と、この世の無常や執着をテーマにした問答を繰り広げる。やがて江口が実は「普賢菩薩」の化身だということが明かされる。後半の菩薩となってからの華やかで神秘的な舞、美しい姿となり月光の中に消えて行く。幻想的な結末だが、今回は、慈悲や悟りの実践を象徴する普賢菩薩を描く時に描かれる6本の牙をもつ白い象に乗る姿が一般的なことから「藤間流では象に乗らないというのが基本だったんです。でも今の時代は視覚的に見えた方がわかりやすいんじゃないかと思う」と、観てのお楽しみだ。
最近は花柳壽輔が舞踊の監修などで参加していることが多く、「僕がずっと演出していても舞台に立っていると、見えない所、明かりが漏れてるとか転換が早いとか色々なことを修正してくれます。舞台の隅々のことを直してもらうようについてもらっていたんです。昔からそうだったと思うんですが、しょっ中、話し合いながら細かいことを修正してやっていくことがお客様のためというか舞台のためだと思っているのでいてくれて助かります」と言い、全ては「開演前から終幕まで、幻想的な、非現実的な美しい時間をしっかり作り上げていきたい。これまで応援してくださった方はもちろんですが、評判を聞いて足を向けてくださるものを作っていくのが僕のやるべきことだと思っている。失望させないということが僕にとって一番の課題なんです」とも話した。舞踊公演で恒例となった幕開けの「口上」も行う。
南座特別公演に続き
▽片岡仁左衛門 坂東玉三郎―お話とシネマのひとときーを6月19から21日まで開催。
まず人間国宝二人の対談を行い、19日は2018年2月歌舞伎座公演「仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場」、20日は1982年3月歌舞伎座公演「色彩間苅豆 かさね」、21日は2005年4月歌舞伎座公演「与話情浮名横櫛 木更津海岸見染の場・源氏店の場」を上映する。
「コロナ禍で始まったものだったんですけど、意外とお客様に口上を楽しんでいただけたので、対談をすることになりました。二人がめいっぱい、しっかりやってきた時代のもの。記録として撮ったもので、こんな時でなきゃ見てもらえないものです」と、玉三郎。シネマは仁左衛門のリクエストで決まった。
▽24日と25日は、坂東玉三郎・木村竜蔵・木村徹二コンサート
鳥羽一郎の長男の木村竜蔵(24日)と次男の木村徹二(25日)それぞれと玉三郎が時代を超えて歌い継がれている名曲の数々を歌いあげる。
★京都芸術劇場開場25周年記念・祝首里城復興記念・春秋座特別公演「琉球芸能」(6月13日、京都市左京区の京都芸術大学内京都芸術劇場春秋座)
2012年から隔年で国立劇場おきなわと開催してきた企画で、8回目の今回、初めて沖縄芝居・歌劇「奥山の牡丹」を上演する。
厳しい身分制度が存在した封建時代を舞台に、首里の名門士族の平良三良(嘉数道彦)と門付芸人の娘チラー(伊良波さゆき)との許されざる恋、運命に翻弄される母と子の深い愛情を描いた悲劇。息子の将来を思い身を隠した母、母を捜し求める息子の旅路、奥山での偶然の出会い。琉球ならではの音楽と歌、独特の背景幕も見どころ。四大歌劇の中の一つ。作・伊良波尹吉、美術・新城榮徳。
金城真次・国立劇場おきなわ芸術監督は「沖縄芝居は大きく分けるとセリフ劇と歌劇があります。芝居ファンの中で最も人気があるのが歌劇です。歌と演技の両方ができないといけないですが、ファンは歌の出来不出来で評価する。日常会話に出てこない言葉も多く、背景幕も赤瓦の家や緑の多い自然など今とは違う風景が描かれて、昔の沖縄が芝居の中に入っています。沖縄以外でこの作品を上演するのは初めての経験です。沖縄芝居の醍醐味が詰まった名作を楽しんでいただければ嬉しいです」と話し、最強の役者を揃えた。
琉球舞踊の祝いの舞「かぎやで風(かじゃでぃふう)」をはじめ「谷茶前(たんちゃめー)」「鳩間節(はとまぶし)」も上演する。
地謡は歌三線を新垣俊道、仲村逸夫、棚原健太、箏を池間北斗、笛を入嵩西論。

★第七回千五郎の会・京都公演『狂言百鬼夜行』(7月4日、京都観世会館)
京都を拠点とする能楽狂言方大蔵流の茂山千五郎家当主だった祖父・千五郎の時代から続く「狂言会」で東京で行われていた。現・千五郎になって7回目。昨年の舞台生活50周年を迎えたのを機に京都でも開催した。今回は「狂言百鬼夜行」と題して、小泉八雲・原作の怪談「常識」を千五郎が作・演出した同名の怪談狂言と、松江に古くから伝わる怪談噺を新たに千五郎が作・演出した新作「松風」、京極夏彦・作、茂山千之丞・演出の妖怪狂言「狐狗狸噺(こくりばなし)」を上演する。
2017年の日・アイルランド外交関係樹立60周年記念事業として、アイルランドの詩人で日本の能狂言に関心の高かったW・B・イェイツが狂言の様式や構造にインスピレーションを得て1917年に書き上げた戯曲「猫と月」を狂言化して同国3都市で上演したのが怪談噺を取り上げるようになった始まり。その時に同国ゆかりのラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の怪談を狂言に仕立てたのが「ちんちん小袴」で、曽孫で民俗学者の小泉凡と話し合いながら昨年、作った新作狂言「常識」も好評を得た。
「常識」は、日頃の功徳により仏様が見えるようになった京都の愛宕山に住む博識の僧侶が信仰深い猟師を一緒に仏様を拝もうと誘う話。僧侶を茂山茂、猟師を茂山千之丞、茂山鳳仁、茂山竜正。
千五郎は松江市の寺院・清光院に伝わる悲恋と復讐の怪談「松風」に挑む。
相撲取りと恋仲の遊女・松風が横恋慕する侍から逃れて清光院まで来るが途中で侍に斬りつけられた位牌堂の前で謡曲「松風」を謡うと遊女の霊や血の跡が現れるという物語。配役は未定で、茂山千五郎、茂山逸平、茂山虎真、島田洋海が出演する。
千五郎は「八雲の考えやアニミズム・自然信仰が、狂言の世界や作品に近いものがあります。森羅万象すべてのものに精神が宿るというか神様がいるという考え方は日本の信仰にも合いますよね」と話す。
「狐狗狸噺」は、うだつの上がらない男を茂山逸平、狐を鈴木実、山犬を茂山宗彦、狸を茂山千五郎がつとめる。
「がっつり新作3本というのはあまりしたくないのですが、また違った狂言の楽しみ方もしていただけるんじゃないかな思います」と言い、「もともと新作を書く人間じゃなかったんですよ。童司(千之丞)に任せておけばええと思っていたんですが、必要に迫られて書くようになりました。原作を読んでどうビジュアル化というか舞台化して行ったらいいかなと考えているのは面白いですね。しんどいですけど、そういうのも楽しんでもらえるかなと思います」と、新たな才能を発揮している。
幕開けには、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の民俗学的研究やケルト口承文化研究などをしている小泉凡との対談も行う。
東京公演は「小泉八雲と狂言の出会い」と題して、6月21日、品川区の十四世喜多六平太記念能楽堂で開催する。

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