▽新作文楽「まちの灯」(―8月9日、大阪・日本橋の国立文楽劇場) ▽あべの歌舞伎「晴の会」夏休み特別公演(7月31日―8月3日、大阪・天王寺の近鉄アート館)
★新作文楽「まちの灯」(―8月9日、大阪・日本橋の国立文楽劇場)
喜劇王と呼ばれたチャールズ・チャップリンの原作映画「街の灯」を日本の伝統芸能の技法で再現した人形浄瑠璃文楽の新作「まちの灯」が大阪・日本橋の国立文楽劇場で上演(―8月9日まで)されて好評だ。恋愛がテーマの今で言うラブコメ。ほのぼのと優しい気持ちになれる。大人に限らず子供も楽しめそうだ。
舞台は幕末の大坂・天神橋界隈。大仏開眼供養の日、大仏の手のひらで寝ていた男・宿無し与次郎が、流行病で光を失った花売り娘のお花に一目惚れする。酔うと大盤振る舞いをする商人の勘右衛門や一癖ある番頭も登場、お花の治療代を稼ごうと賭け相撲に挑む与次郎、チャップリンらしい笑いとペーソスを織り交ぜて描いていく。
脚本・演出を担当した大野裕之は文楽の愛好家で日本チャップリン協会会長でもあり16年前から豊竹若太夫らと交流があった。
「チャップリンのリズムと文楽のリズム、大阪言葉のリズムは共通点がある。近世大阪言葉の文法を覚え直し、七五調の掛詞を駆使して執筆しました。昔の大阪言葉のラップのようなもので非常に興味深い作業だった」と、浄瑠璃・義太夫語りの豊竹若太夫と話し合いながら仕上げたと言う。
補綴を手がけた豊竹若太夫は「口を聞かない人形に喜怒哀楽を込めるのが浄瑠璃です。その良さを生かして、与次郎はちょい良い(ワル)おやじの感じで、勘右衛門は酔った時と覚めた時、お花の誠実さを意識して語り、『究極の愛』に仕上げたい。文楽の財産になるようにつとめたい」と意気込みを語っていた。
与次郎の首(かしら)はちょび髭を蓄え「チャーリー」と命名され、上下に動く眉は、眉尻が下がるという異例の仕掛けも考案された。
与次郎を遣う人形遣いの桐竹勘十郎は人形監修もつとめる。「映画をみてチャップリンの足の動きの見事さに圧倒された思い出があります。アップ・シーンの表情も印象的で、人形の全身で喜怒哀楽を表現する三人遣い(人形の首と右手を受け持つ主遣い、左遣い、足遣い)だからこそ出来る動きで近づけたい」と、首や床山、衣装などの担当者らと打ち合わせし相談しながら細部までこだわり、写実的な細やかな動きで表現する文楽人形の真髄に挑む。お花と見つめ合うシーンなど人形遣いの存在を忘れそうになった。
作曲を任された三味線の鶴澤友之助は若太夫とコンビを組み演奏もする。「もともと西洋音楽で育ちましたが、文楽の旋律もわかるようになり、奇抜にならないように両方が溶け込むように意識して作曲しました」と、差し色(アクセント)的に五線譜の音律も組み込み、胡弓の音色も効果的で、どこかモダンな雰囲気を醸し出しながらも違和感なく新たな世界観を作り上げている。作調・望月太明蔵、作曲補助・豊竹希太夫、脚本アドバイザー・片山剛。
共感しやすい「現代の文楽」になったのではないだろうか。書割の群衆も斬新だ。言葉も物語もわかりやすくて楽しめる文楽入門に最適かもしれないと思わせた。
同時に開催している夏休み文楽特別公演第2部の古典名作劇場「源平布引滝」「恋娘昔八丈」と比べて観るのも一興だ。
第1部は親子劇場。文楽の解説と1956年に大阪で初演した「雪狐々姿湖(ゆきはこんこんすがたのみずうみ)」を上演している。
★第十一回あべの歌舞伎「晴(そら)の会」・夏休み特別公演「瀧汗舞踊顔見晴(たきのあせおどるかおみせ)」 (7月31日―8月3日、大阪・天王寺のあべのハルカス近鉄本店ウイング8階の近鉄アート館)
例年であれば7月は大阪・松竹座の舞台に立ちながら稽古を続けていたが、5月に松竹座が「一旦」閉館した事で東京や博多などの舞台に出演することになり、全員が集まって稽古をすることが難しくなった。今年は一人一人で稽古のできる歌舞伎舞踊に挑むこととなった。
これまで新作や旧作の復活などの芝居を上演してきた。今回も新しいものに挑戦したいとの思いがあり、新編・上方笑作事(しょさごと)「三人ほら吹き」を創作。上演が途絶えていた狂言舞踊を、歌舞伎俳優の片岡千次郎こと亀屋東斎が、発想を変えて脚色、上方舞山村流六世宗家・山村友五郎が振付・演出する。監修・片岡仁左衛門。
盗賊が横行する大坂の住吉あたりに住む晴岡主馬(片岡佑次郎)は、一芸に秀でた腕利きの強者を集める高札を掲げる。得手ごとを自慢する剛の権蔵(片岡松十郎)、おきゃんのお花(片岡千壽)、はしこい半平(片岡千次郎)らが採用される。主馬は三人に蔵の鍵を預けて京の西山へと出掛ける。従者の吾郎太(中村翫政)、腰元の桃枝(片岡りき彌)、腰元の雛枝(片岡千太郎)、ぐう太郎(中村鴈大)らが登場する。
千次郎こと亀屋東斎は「狂言舞踊という観点から何事も品よく明るくというところを踏まえつつ、上方訛りというものをふんわりと入れて、お客様にも楽しんでいただけるように
書きました」といい、役者の個性に合わせ当て書きした。
「自慢話に人間臭さも出そうと当て書きしました。吾郎太と主馬の掛け合いも楽しんでいただけると思います」と話す。
晴の会は松竹座で開催されていた上方歌舞伎塾一期生の片岡松十郎、片岡千壽、片岡千次郎を中心に2015年に結成した。「11回目を開催させていただけますこと、本当に一同喜んでいます。松竹座の閉館は寂しい気持ちでいっぱいで、今後、大阪で歌舞伎ができるか不安ですが、大阪の地で歌舞伎ができるという喜びを舞台にぶつけたい」と片岡松十郎。
「この会で色々と勉強させていただき、歌舞伎の難しさもわかるようになってきました。片岡秀太郎師匠からやりすぎないで役を生き、自分で楽しんで、その楽しさをお客様に感じていただくと言うことを教わりました。そういうことを大事につとめさせていただきます」と片岡千壽。
「昨年は念願の『夏祭浪花鑑』という大作に挑むことができて、本当に嬉しく幸せで、勉強させていただいてありがたいという思いでいっぱいでした。今回は原点回帰というような思いも込めて、簡素な舞台でどこまで表現できるか挑戦していきます。幅広いお客様に気軽に楽しんでいただけるように頑張りたい」と片岡千次郎。引き続き上方歌舞伎の継承を目指す。
舞踊三題も上演。長唄「傾城」片岡千壽、片岡りき彌、常磐津「粟餅」中村翫政、片岡千次郎、長唄「橋弁慶」片岡松十郎、片岡千太郎。

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