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みつ恵の演劇の楽しみ
(演劇ライター・前田みつ恵)
2024年10月21日
▼第十四回永楽館歌舞伎(兵庫・豊岡の出石永楽館11月4―11日)
▼中之島文楽2024(大阪市中央公会堂10月25、26日)
▼11月松竹新喜劇公演(大阪松竹座11月16―24日)
▼11月文楽公演(大阪・国立文楽劇場11月2―24日)
▼ピッコロシアター鑑賞劇場・文学座公演「摂」(兵庫・尼崎のピッコロシアター11月9、10日)
★第十四回永楽館歌舞伎
(兵庫・豊岡の出石永楽館11月4―11日)
義太夫狂言の大作「奥州安達原・袖萩祭文」と同公演で人気の「口上」、下駄でタップダンスを踊る昭和8(1933)年に初演した舞踊劇「高坏」を上演す
る。
近畿最古の芝居小屋として永楽館復原記念「永楽館柿落大歌舞伎」を2008年に開催以来、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年度から3年間の公
演中止以外、年に1度、片岡愛之助、中村壱太郎を中心に行ってきた。
愛之助は「永楽館でたくさんのお役、初役をやらせていただきました。今回の安倍貞任(袖萩祭文)も初めてです。元々ある型なんですけれども少し自分なりに
工夫して作ってみようかなと思うところもあります。演出も派手にしたいと思っております。口上はアンケートを取ったら一番の人気“演目”ということで、皆
様のお声にお応えして行うことにしました。最後の『高坏』も初役で、前からやってみたいと思っていました。下駄でタップダンスは難しいんですけれども、皆
様にわーっと楽しんで頂きたい」と話している。
「奥州安達原」は平安時代後期に朝廷に討伐された奥州の豪族・安倍頼時の生き残った息子・安倍貞任・宗任兄弟が敵の源義家に復讐する話で、「袖萩祭文」
は、天皇の弟・環宮の御殿を舞台に、敵対する安倍貞任の妻となったために勘当された袖萩(中村壱太郎)が娘を連れて訪ねてくる場面。誘拐された環宮の養育
係である父・平直方(市川九團次)の難儀を聞いてやってきたのだが面会は叶わず、母・浜夕(片岡千壽)から願い事を祭文で語って聞かせるように促された袖
萩は、三味線を弾き自らの親不孝を詫びる。そこへ勅使に化けた貞任(片岡愛之助)が現れる。八幡太郎義家を片岡孝太郎、安倍宗任を中村歌之助が演じる。
「高坏」は、花見に出かけた大名某(市川九團次)に高坏を用意するように言われたものの高坏を知らない次郎冠者(片岡愛之助)が求めて出かける。太郎冠者
を中村歌之助、高足売を中村壱太郎。
★人形浄瑠璃文楽×浪曲×現代美術プロジェクションマッピング中之島文楽2024〜美しい日本の四季を
伝統芸能で魅せる〜
(大阪市中央公会堂10月25、26日)
第一部は、夏をテーマに、新作浪曲「夏祭浪花鑑」。真山隼人、曲師・沢村さくら。
「秋」は文楽「花競四季寿・関寺小町」。豊竹藤太夫、鶴澤燕三、吉田玉佳。
第二部は文楽で、「冬」は「伊達娘恋緋鹿子・火の見櫓の段」。竹本織太夫、鶴澤清𠀋、桐竹紋秀。
「春」は「義経千本桜・道行初音旅」。豊竹藤太夫、竹本織太夫、鶴澤燕三、鶴澤清𠀋、吉田一輔、吉田玉男。
現代美術の画家・谷原菜摘子の絵をプロジェクションマッピングで舞台に投影して日本の四季を演出する。
竹本織太夫は、「春夏秋冬と季節によって演目があります。二部の両曲とも務めさせて頂いています。師匠(故・豊竹咲太夫)の静御前で佐藤忠信を何十年も勤
めさせて頂きましたし、台本を師匠から頂きました。『道行初音旅』の華やかさも表現したい」。
鶴澤燕三は「秋と春を担当します。『関寺小町』は口伝の多い、非常に難しい曲です。秋らしい風情を醸し出したい。『道行初音旅』は静御前を弾きます。厳し
く指導して頂いた師匠(先代・燕三)に近づこうと思いながら弾いています。静がまず登場して鼓の音で何処からか忠信が現れるという演出で、桜が満開の中の
道行を楽しんで頂きたい」
吉田一輔は「本公演で『道行』だけはやらせて頂いていますが、玉男兄さんとは初めてで楽しみにしております。吉田簑助師匠の静の左とか、父の静の足とか経
験を積んできました。非常に難しく、主遣いになって、重く感じるんですけれども、どのくらい力を抜いて遣えるかというのが大事だと教わりました。年を重ね
るうちに少しづつ抜けてきたと思います。楽しんで頂けるように勤めたい」
吉田玉佳は「先代の吉田玉男師匠も2回ほど遣ったと聞いておりますが、吉田文雀師匠のしか観たことがございません。振りが多くて難しいですが、華やかな品
のある小町を遣われていたのを思い出して真似したい」
浪曲師の真山隼人は「文楽の床本を使わせて頂いて作りました浪曲の新作です。主人公の団七と舅の義平次の最後の掛け合いに重点を置いて語らせて頂きます。
浪曲は口語で、曲師の三味線とセッションして語る芸で、文楽の義太夫と似たところもありますが、とっつきやすいと思います。楽しんで頂きたい」
すでにポスターやチラシで絵を提供している谷原菜摘子は、埼玉県生まれ。2016年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修了。黒や赤のベルベッ
トを支持体に油彩やアクリルのほかにグリッターやスパンコール、金属粉なども駆使して「自身の負の記憶と人間の闇を混淆した美」を描いている。2017年
秋から1年間のパリで研修し、帰国後は関西を拠点に活動。2022年「令和4年度咲くやこの花賞」を受賞した。
谷原は「既存の物語を作品にするのは初めてです。文楽を知らなかったので床本を読み登場人物の心境を理解しないと描けなかった。古典に触れる良い機会でし
た」と、それぞれ話している。
★11月松竹新喜劇公演
(大阪松竹座11月16―24日)
昨年、劇団創立75周年を機に三代目渋谷天外が劇団代表を勇退。藤山扇治郎、渋谷天笑、曾我廼家一蝶、曾我廼家いろは、曾我廼家桃太郎の若手5人が軸とな
る新体制をスタートさせた。新たな企画として、11月公演に向けて一般投票で決定する「松竹新喜劇演目総選挙」を、この4月から5月にかけて実施。最も投
票数の多かった「人生双六」を上演する。
大阪へ出てきたものの就職先は倒産し、持ち金も尽きて彷徨い歩いていた宇田信吉は、同じく失業した浜本啓一と出会う。浜本はたまたま拾った大金に心揺らぐ
が、実直で純粋な宇田の人柄に胸打たれ大金を落とし主に返す決心をする。二人は互いの幸せを祈り、5年後に同じ場所での再会を誓う。貧しい二人の男の境遇
と友情を描く。
茂林寺文福と舘直志の合作で、曾我廼家十吾、二代目渋谷天外が旗揚げした松竹家庭劇で1938年に初演した。その後、松竹家庭劇など関西の喜劇を支えてい
た3つの劇団が合体、結成した松竹新喜劇でも1949年に初演、再演を重ね、藤山寛美らが演じてきた。今回、寛美のもとで修業を積み宇田役も演じてきた曾
我廼家八十吉が演出する。
宇田役の曾我廼家一蝶は「夢が叶った公演です。松竹新喜劇で初めて観た作品で、今回、お客様が選んでくださった。松竹新喜劇の全てが詰まってます。これま
でに浜本もやり、藤山寛美先生がやってこられた宇田に前回は天笑くんとダブルキャストで挑みました。今回は、初日から宇田役で楽しんで頂けるように頑張り
ます」と気合いが入る。
浜本役の渋谷天笑は「大好きな作品で、役者が人生経験を重ねていくほどに作品も良くなると思います。僕も結婚しましたし、新しい『人生双六』になるように
頑張ります」と張り切っている。
投票応募用紙にもう1本の上演作品として明記していた「砂糖壺」は、5人で台本を読んで選んだ。茂林寺文福と舘直志の合作、初演は松竹家庭劇で1939
年、松竹新喜劇で1949年、今回、43年ぶりに上演する。
拾った大金を使おうとする母・梅野洋子と警察へ届けようとする息子・庄太郎。和菓子屋の傍若無人な洋子と商売に不向きな庄太郎の二人が織りなす家族愛を描
く。今回は、極道な息子と息子思いな母親という設定を入れ替え、母親役に元OSK日本歌劇団トップスターの洋あおいを迎える。演出は、わかぎゑふ。
洋は「寛美先生の舞台を観てあったかいものをもらってました。観ている人が自分の人生を重ねていけるように、破天荒な母親ですがすっと入れるようにOSK
で培った男役の仕草なども交えて演じたい」
息子役の藤山扇治郎は「洋さんとがっつり親子役で母と息子の情愛でほっこりして喜んでもらえる作品にしたい」
「人生双六」の浜本の妻・真砂子と「砂糖壺」の質屋の娘・睦子を演じる曾我廼家いろはは「真砂子はしっかり者でキーパーソンとなる役で、睦子ははっちゃけ
ている。違った一面を観て頂きたい」
曾我廼家桃太郎は「宇田の人柄を際立たせたり、庄太郎を引き止めたり、両作品とも一歩引いて引き立てる役です。いい塩梅でやりたい」
総選挙で図らずも同じ系統の「人生双六」が選ばれたことについて扇治郎は「男の友情と家族愛とお金の話で、同じ系統の演目になりましたが、悪人が出てこな
い松竹新喜劇らしい作品で今のお客さんに共感してもらえると思います」と話す。
「演目総選挙」は松竹新喜劇の代表作10作品の中から5月公演で劇場に設置した投票用紙や専用WEB応募フォームから投票された総数は1163票で、1位
「人生双六」214票、2位「お祭り提灯」168票、3位「一姫二太郎三かぼちゃ」144票だった。
★11月文楽公演
(国立文楽劇場11月2―24日)
赤穂浪士の討ち入り事件を題材にした屈指の名作「仮名手本忠臣蔵」の大序から七段目までを、4年ぶりの2部制で通し上演する。国立文楽劇場開場40周年記
念。
第1部は、大序「鶴が岡兜改めの段」から4段目「城明け渡しの段」まで。
殿中で侮辱された塩谷判官が高師直に斬り付ける「殿中刃傷の段」は、豊竹呂勢大夫、鶴澤清治、「塩谷判官切腹の段」は豊竹若太夫、鶴澤清介。
第2部は、5段目「山崎街道出合いの段」から7段目「祇園一力茶屋の段」まで。
「早野勘平腹切の段」は竹本錣太夫、竹澤宗助。「祇園一力茶屋の段」は竹本千歳太夫、鶴澤燕三(前)、豊澤富助(後)ほか。
人形は、塩谷判官を吉田和生、高師直を吉田玉志、大星由良助を吉田玉男、顔世御前を豊松清十郎、早野勘平を桐竹勘十郎、おかるを吉田一輔、寺岡平右衛門を
吉田玉助ほか。
第2部「靱猿」は豊竹藤太夫、鶴澤清志郎、吉田簑二郎、桐竹紋臣、吉田玉誉ほか。
★ピッコロシアター鑑賞劇場・文学座公演「摂」
(兵庫・尼崎のピッコロシアター大ホール11月9、10日)
演劇界に大きな足跡を残した舞台美術家の朝倉摂の芸術家としての原点を描く。大正11年彫刻家・朝倉文夫の長女として東京下谷区谷中に生まれた。17歳の
時、日本画家の伊東深水に入門。日本画家として頭角を表していく。しかし、太平洋戦が勃発し摂の青春は戦時色に覆われていく。戦後、家を出た摂は自画像を
描き、自らの「闘争」を決意した。作・瀬戸口郁、演出・西川信廣。
出演は、新橋耐子、原康義、富沢亜古、鈴木弘秋、壮田由紀、神野崇ほか。
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