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鹿革を素材とした装飾革製品、「印伝」。なめして柔らかくした鹿革に、漆を用いて模様をあらわしたものが、こんにち私たちがよく目にする代表的なものです。
軽くて丈夫で柔らかい特色をもった鹿革は、古くからごく自然に生活の中に取り入れられてきました。
鹿の革に模様を染めるといった皮革加工技術の歴史は長く、例えば奈良時代のものとして、山水文を精妙に描いたふすべ革の文箱(ふばこ・東大寺国宝)に、かつての姿を見いだすことができます。
中世の頃は、鎧や兜にも鹿革が使われました。強度や耐久性に優れているという鹿革の持ち味が生かされたわけです。
また、武具の持つ威厳と華麗さを調和させるのに、皮革技術や染色技法も磨きがかけられていきます。
江戸時代になると、武家や庶民の間で巾着(きんちゃく)や莨(たばこ)入れ(刻み莨を入れる携帯用の袋)、あるいは火消しの革羽織・頭巾など、生活を彩る様々な備品に鹿革加工技術が施され、人々を魅了しました。
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菖蒲
菖蒲が勝負・尚武に通じることから、武具に多く用いられた柄。
印伝には欠かせない模様のひとつ。 |
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日本の長い歴史の中で育まれてきた鹿革加工。
これがいつの頃から「印伝」と呼ばれるようになったか、実は定かではありません。
一説に、彩色鹿革を細工したものが十六世紀中頃にインドから伝来、そこから「印伝」の名前があると言われています。
ただ、滑稽本で有名な『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』(十返舎一九(じっぺんしゃいっく)著/1802年刊)には、「喜多八、腰に提げたる印伝の巾着を出しみせ侍に売りつける」と「印伝」の文字が。
つまり少なくとも江戸後期にはこの呼び名があったようです。
伝統工芸としての印伝は現在、山梨県甲府市周辺で受け継がれています。
江戸時代の甲州。現在の老舗「印傳屋」の遠祖にあたる上原勇七が、鹿革に漆で柄をつける独特の手法を創案。
漆が持つ防水性によってさらに革は丈夫になり、豪華で味わい深い趣も生まれました。漆がひび割れして独特の模様となるところから「地割(じわれ)印伝」「松皮(まつかわ)印伝」とも呼ばれていたとか。
以前から甲州は鹿と漆の産地だったこともあり、好条件がそろっていたと思われます。
人気を得て甲州印伝として定着。用途も、巾着、信玄袋(しんげんぶくろ・大型の提げ袋で主に旅行用)、早道(はやみち・旅行用の銭入)、莨入れなどと広がりを増しました。
現在印傳屋では、財布やハンドバックなど、多種多様な製品が造られています。
そして忘れてならないのに、印伝が持つ模様の美しさ。黒、紺、えんじなどに染め上げられた鹿革に、細かく盛り上がった模様が艶やかな光を放ちます。
小桜、亀甲、青海波、ひょうたん、爪唐草…。どれもが昔から自然や四季の美しさに敏感だった日本人の美意識に満ち溢れています。
人々の思いが閉じ込められたいにしえの模様に加え、現代の感覚を反映した新しい柄も次々と誕生。
鹿革と漆が織りなす美のかたちは尽きることはありません。
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模様の種類は300種以上。柄付けの漆は主に黒、朱、白を使用。
(模様は上から菊、紗綾形、小桜。) |
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